人は幸せになるために生まれてきたのです（光文社）／つかこうへい

1996年9月30日 初版1刷発行。

つかこうへいは、1948年4月24日生まれ、2010年7月10日に逝去した、福岡県出身の日本の大韓民国国籍の劇作家、演出家、小説家です。

本作は、著者がかつて手がけた作品であり、舞台化や映画化もされた『蒲田行進曲』の登場人物である「銀ちゃん」に実在のモデルがいたということを明らかにした上で、著者の分身とも解釈できる＂パパ＂が＂娘＂に対して、「銀ちゃん」との思い出を語っていく構成になっています。
「銀ちゃん」に関わる様々な人物、「銀ちゃん」の故郷である長崎県五島H島、今「銀ちゃん」がこの足で踏みしめている東京、そしてかつて「銀ちゃん」が生を授かった海の向こうの朝鮮半島についての描写は続いていきます。
そして同時にそれらは、著者を巡るエピソード－周囲の演劇仲間や、同じ時間を共有する日本という空間、そして在日という出自とも響き合い、やがて本作の登場人物の言葉や振る舞いが、まるで舞台でそれぞれの人生という役を全うしようとすると人間の営みのように伝わり、やがて読者は著者が目の前に作り出した舞台の観客になった気分になります。
それはさらに、本作に触れた人間に、読者や観客という傍観者であることさえも捨てさせ、著者が作った舞台で同じように人生を全うさせる役が与えられる機会でもあるのです。
何か特別な誘いや励ましの言葉をかけられるわけではありません。
ただ、本作の題名＂人は幸せになるために生まれてきたのです＂という、生に対する強い肯定感を得ることができるだけの濃密さが、本作総計199ページのなかにはあります。

経年による色褪せとシミとキズが少しだけあります。
それ以外は美品です。