Soft Bulletin ザ・フレーミング・リップス

Soft Bulletin
ザ・フレーミング・リップス
1曲目「Race for the prize」のあまりにも美しい音の洪水に度肝を抜かれました。かつてフレーミングリップスといえば極彩色のサイケデリック・ギターをかき鳴らし、突拍子もない歌を口ずさむ奇天烈バンドのイメージだったのですが、もはやその頃の彼らではありません。ここで奏でられている音はポップソングとしてより高い地平で練り上げられた美しい音の群れです。ホーン、ストリングス、シンセサイザー、テープ・コラージュ、様々なサンプル、ノイズなどありとあらゆるエレメントが波のように押し寄せてくる様は脳のある部分がパァーっと開けてくるような感覚を味わうことができます。それらを綿密なスタジオ作業によって纏め上げたプロデューサー、デイヴ・フリッドマンのキレのある仕事も素晴らしい。歌詞もいつになく直接的で悲哀に満ちていることからも彼らの心境の変化がうかがえますが、かといってリップスらしさがなくなったのかといえばそうではなく、ウェインのへろへろヴォーカルも60年代風の美しいメロディもでこぼこしたヘンテコなリズムも新しいサウンドの中でしっかり生かされています。彼らの大きな転換作であり、21世紀に向けての新たなサウンド追求の出発点でもある文句なしの傑作です。